1. フーリエ級数

1.1 信号の分解

やる夫
そもそもフーリエ変換の意味がわからんお.数学の試験の前に公式と計算のしかただけは覚えたけど,何をやってるのかさっぱりだお.

やらない夫
お前,そこからかよ….先が長過ぎだろ,常識的に考えて…

やる夫
だいたいが「変換」って何を何に変換するんだお.

やらない夫
まあ確かにそこは,いきなり「変換」と考えるとわかりにくいかも知らんな.というか,たぶん数学の授業でもちゃんと順を追って説明してくれたと思うんだが….

やる夫
やる夫が真面目に聞いてるわけないお.

やらない夫
だろうな.…そう,まずは「変換」じゃなくて「分解」だと考えるのがわかりやすい.信号を複数の成分に分解するのがフーリエ変換だ.

やる夫
信号…,分解…

やらない夫
ダメか.じゃあ一つずつ片付けていこう.まず「信号」だが,これは意外と真面目に定義するのは難しい.だから,とりあえず「時間の関数」のことだと思ってくれればいい.時間 $ t$ とともに変化する量を考えて,それを $ t$ の関数で表す.数式で書くなら例えば $ f(t)$ だな.具体例としては,音波でもいいし,気温変化でもいいし,株価でもいい.

やる夫
なんだ,それなら最初から時間の関数と言って欲しいお.

やらない夫
いや,本当は時間の関数とは限らないんだ.空間座標 $ x$ とともに変化する量 $ f(x)$ を考える場合もある.バーコードなんかがそうだ.2 次元の空間座標とともに変化する $ f(x, y)$ を考える場合もあって,画像がまさにそれだ.動画像の場合は,画像が時間とともに変化するから $ f(x, y, t)$ になる.これらはどれも「信号処理」の対象にすることができる.

やる夫
…何か急に話の難易度が上がった気がするお.

やらない夫
だな.だから,多次元の場合を最初から考えると大変なので,まずは 1 次元の場合だけ考えようというわけだ,そのときに $ t$ の関数と考えても,$ x$ の関数と考えても,数学的にはどちらでも全く同じことなんだが,とりあえず時間の関数 $ f(t)$ で考えることにしましょう,ということだ.実際,信号処理分野の用語は,時間関数で考える方が理解しやすいようにできている.特に「音波」だと考えておくと,後々出てくるいろいろな概念がイメージしやすいと思う.

やる夫
よくわからんけど,話が簡単になる方向なら大歓迎だお.

やらない夫
じゃあよしとするか.次は「分解」だ.これはつまり,信号を「複数の三角関数の和」として表そうということだ.複雑な形をしているかも知れない関数を,より単純なものに分解するんだな.三角関数はわかるな?

やる夫
馬鹿にするなお! sin とか cos くらいわかるお.こう見えても高校生までは優等生だったお!

やらない夫
与えられた信号を,例えば 10 Hz,20 Hz,30 Hz … といったいろんな周波数の三角関数の和で表すわけだ.このことを,10 Hz,20 Hz,30 Hz …の周波数成分に分解するともいう.

やる夫
分解して何がうれしいのかお?

やらない夫
複雑なものも,単純な成分に分解できれば理解しやすくなるし,逆に,構成成分がわかれば,元の信号を人工的に合成する道もひらけるってもんだろ.あとは要らないものを取り除いたりとかにも使えるわけだ.

やる夫
ふーん,そんなもんかお.

やらない夫
三角関数で表される波,つまり正弦波とかサイン波とか呼ばれるやつだが,音波だとするとどんな音になるかわかるか?

やる夫
それは高校の物理で習ったお.音叉を鳴らしたときの音がサイン波に近いんだお!

やらない夫
そうだな.他には,117 に電話して聞ける時報の音,あれがサイン波だ.ポッ,ポッ,ポッ,ポーンていう,短いポッが 440 Hz で,長いポーンが 880 Hz だ.あんな味もそっけもない音の足し合わせで,ピアノの音もバイオリンの音もギターの音も作り出せると思うと,結構すごいことだと思わないか?

やる夫
それは確かにそうかも….ということは,音叉をものすごい数並べて,それぞれ丁度よい強さで叩けば,ピアノとかバイオリンに聴こえるってことかお?

やらない夫
うーん,まあ理論上はそういうことだが,叩く強さだけじゃなく,叩くタイミングもシビアに調整しなくちゃいけないので,現実には難しいだろうな.仮にぴったり揃ったとしても,音叉とピアノ・バイオリンじゃ,音量変化のしかたがだいぶ違うから,それっぽく聴こえるようにするのは難しいはずだ.

やる夫
なんだ,つまらんお.

1.2 フーリエ級数

やる夫
で,その丁度良い強さとか丁度良いタイミングってのはどうやって決めればいいんだお?

やらない夫
ようやく本題だな.まずは,分解する信号として周期的な関数 $ f(t)$ を考えよう.周期的でない場合への拡張はそれからだ.周期を $ T_0$ とする.周期的なので,具体的に計算する必要があるときは $ - T_0/2$ から $ T_0/2$ までの範囲だけ考えることにしよう.他の区間も同じものを繰り返してるだけだからな.


\includegraphics[scale=0.5]{fig_fs/periodic_ft.eps}

やる夫
うっ,なんか急に数学っぽい話になったお…

やらない夫
数学なんだからしかたないだろ.先に進むぞ.で,これが sin と cos の足し合わせで構成されているとする.


ついて来てるか?

やる夫
…なんかややこしい sin と cos をたくさん足しているのはわかるお.

やらない夫
そんなにややこしくはないんだ.順番に見ていけばいい.まず最初の $ a_0$ は定数だ.「三角関数の足し合わせ」のはずなのに定数があるのはおかしいと思うかも知れないが,これだって周波数が 0 の三角関数だと思ってしまえばいい.元の信号のうち振動しない成分なので,直流成分と呼んだりする.

やる夫
まあ,そこは OK だお.その後の cos とか sin とかの括弧の中身が萎えるお.

やらない夫
まず $ k = 1$ の場合を考えてみよう.cos の中も,sin の中も,角周波数が $ 2\pi/T_0$ だ.時刻が $ T_0$ だけ経過したら位相が $ 2\pi$ 進むんだから,要するに元の信号の 1 周期でちょうど 1 周するような cos や sin ってことだろ.


\includegraphics[scale=0.5]{fig_fs/sin1cos1.eps}

やる夫
あー,なるほど.$ k = 2$ のときは 2 周するわけだお.


\includegraphics[scale=0.5]{fig_fs/sin2cos2.eps}

やらない夫
そうだ.$ k$ が増えていくについて,より速く振動するサイン波になる.高周波になるんだな.ただし,ここで足し合わされている周波数成分は,「$ k$ が自然数のもの」だけだということに注意してほしい.

やる夫
?

やらない夫
$ k = 1.5$ とか,$ k = 4.3$ とか,そういう半端なものは足し合わせてないってことだ.

やる夫
あー,つまり,元の信号の 1 周期で,ちょうど 2 周とか 3 周とか 15 周とか,何周かして元の位相に戻るようなサイン波しか足してないってことかお.

やらない夫
そうだな.ちょっと記号を定義しておこう.この $ k = 1$ の場合の角周波数を基本角周波数と呼んで $ \Omega_0 = 2\pi/T_0$ と表す.ついでに,さっきから出てきている $ T_0$ の方は基本周期と呼んだりする.「周期」「周波数」「角周波数」の間の関係は大丈夫か?

やる夫
えーと,周期 [s] と周波数 [Hz] は互いに逆数の関係だお.角周波数 [rad/s] は,周波数を $ 2\pi$ 倍したものだお.だから確かに $ \Omega_0 = 2\pi/T_0$ になるお!

やらない夫
いいだろう.基本角周波数 $ \Omega_0$ を使って書くと,式 (1.1) は

$\displaystyle f(t) = a_0 + \sum_{k=1}^{\infty} \left\{ a_k \cos{\left(\Omega_0 k t\right)} + b_k \sin{\left(\Omega_0 k t\right)}\right\}$ (1.2)

と表せる.

やる夫
なんだ,こっちの方がわかりやすいお.

やらない夫
そう思うならこっちで考えればいい.どっちにしても同じことだ.大事なのは,この式では $ f(t)$ を,基本周波数の自然数倍の周波数をもった sin や cos だけ (と直流成分) の足し合わせで表現しているってことだ.


\includegraphics[scale=0.5]{fig_fs/fseries.eps}

基本周期が 0.01 s なら,基本周波数は 100 Hz (基本角周波数 $ =
2\pi \times 100$ [rad/s]) なので,$ f(t)$ は直流成分と,100 Hz の成分,200 Hz の成分,300 Hz の成分…,に分解されることになる.

やる夫
102 Hz とか,250 Hz の成分は出てこないってことかお.

やらない夫
そういうことだ.想像してみればまあ自然なことだと思うぞ.元の信号が 0.01 s 周期で周期的なんだから,それを組み立てるサイン波も,0.01 s の区間内に整数個の周期がすっぽり収まるようなものじゃないと困るだろ,常識的に考えて….

やる夫
確かに,そうなってないと足し合わせて周期的にならないような気がするお.

やらない夫
だから,分解できるとしたらこういう形にならざるを得ない,ってのはまあ納得できると思う.残る問題は,本当にどんな周期関数でもこの形に分解できるんだろうか,ということだ.

やる夫
なるほど.でもこの話の流れならできるに決まってるお.

やらない夫
残念,できない.

やる夫
どういうことだお! できないことを延々と聞かされてきたのかお!! 今さらできないとか言われても困るお!

やらない夫
まあ待て落ち着け.「どんな周期関数でもできるわけではない」という意味だ.実用上,信号処理の対象としたくなるようなものはほとんど分解できると思って大丈夫だ.もう少し正確にいうと,式 (1.1) の両辺を $ =$ で結ぶことの意味をどのように定義するかによって,分解できるかできないかの条件が変わってくる.そのあたりの詳しい話を知りたければ,数学の教科書をあたって欲しい.

やる夫
何言ってるかわからんお,教科書読むくらいなら納得したことにするお.実用上十分ならそれでいいお.

やらない夫
本当はそういう態度ではいかんのだが…まあ先に進もう.こうやって,式 (1.1) のように表すことを,$ f(t)$ をフーリエ級数に展開するという.そのときの係数 $ a_k$$ b_k$ をフーリエ係数と呼ぶ.さっきの話でいうと,このフーリエ係数によってそれぞれの音叉を叩く強さとかタイミングが決まるわけだ.

1.3 フーリエ係数

やる夫
なるほど.…ってあれ? まだそのフーリエ係数の求め方を聞いてないお.

やらない夫
それがこれからの話だ.

やる夫
やらない夫は話が長いお.

やらない夫
誰のために話してると思ってんだ! まあいい.基本的なアイディアはこういうことだ.例えば $ a_3$ の値を求めたいとしよう.式 (1.1) の両辺を式変形していって, $ a_3$ 以外のすべてのフーリエ係数がうまいこと消えてくれるようにしてやる.そうすればあとは $ a_3$ についての方程式を解いてやればいいわけだ.

やる夫
そんなうまくいくのかお.

やらない夫
じゃあまず $ a_0$ から考えるか.この場合やることは割とシンプルだ.両辺を $ - T_0/2$ から $ T_0/2$ まで単純に積分しよう.

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)dt = \int_{-T_0/2}^{T_0/2} \left\{ a_0 +...
...k}{T_0}t\right)} + b_k \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}\right\}\right\}dt$ (1.3)

で,ちょっと細かいことに目をつぶって,右辺の積分と総和を入れ替え可能だとしようか.するとこうなる.

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)dt = \int_{-T_0/2}^{T_0/2}a_0 dt + \sum_...
...}dt + \int_{-T_0/2}^{T_0/2}b_k \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}dt\right\}$ (1.4)

やる夫
う,なんかひどいことになってきたお.

やらない夫
見た目はごついけど,やってることは単純だ.積分を,級数の各項の中でするようにしただけだな.で,その各項のうち, $ a_0$ 以外はきれいさっぱり 0 になって消えるんだが,わかるか?

やる夫
?

やらない夫
右辺に出てくる cos や sin はどれも,いま積分している $ - T_0/2$ から $ T_0/2$ の範囲にちょうど整数個の周期がすっぽりおさまっているんだったろ? だからこの範囲で積分すると全部 0 になる.式で書くと,任意の自然数 $ m$ についてこうなる.疑うんなら計算してみるといい.


やる夫
疑いませんお.

やらない夫
てことで,$ a_0$ の項だけ残るわけだ.

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)dt = \int_{-T_0/2}^{T_0/2}a_0 dt = T_0 a_0$ (1.6)

あとはこれを $ a_0$ について解けばいい.

$\displaystyle a_0 = \frac{1}{T_0}\int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)dt$ (1.7)

やる夫
あ,$ a_0$ が求まったお.つまり元の信号を 1 周期分だけ積分して,それを周期の長さで割ればいいのかお.

やらない夫
そういうことだ.要するに元の信号の時間平均値が $ a_0$ だ. sin や cos の足し合わせだけじゃ,どう足掻いても平均 0 の信号しか作り出せないから,その分を定数項 $ a_0$ として足してやっているわけだ.「直流成分」と呼ばれる由縁だ.

やる夫
その他のフーリエ係数も同じように計算すればいいのかお? でも今みたいに都合よくいく気がしないお.

やらない夫
考え方は同じだ.でも使うのは式 (1.5) ではなくて,こんなのだ.任意の自然数 $ m$$ n$ の組について

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2} \cos(\frac{2\pi m}{T_0} t) \cos(\frac{2\pi n}{T_0} t) dt = \frac{T_0}{2}\delta_{m,n}$ (1.8)
$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2} \sin(\frac{2\pi m}{T_0} t) \sin(\frac{2\pi n}{T_0} t) dt = \frac{T_0}{2}\delta_{m,n}$ (1.9)
$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2} \cos(\frac{2\pi m}{T_0} t) \sin(\frac{2\pi n}{T_0} t) dt = 0$ (1.10)

やる夫
なんかまた大軍が押し寄せてきたお.

やらない夫
お前はいちいち大げさなんだよ.まず記号の説明だが, $ \delta_{m,n}$ は,$ m = n$ のときに 1,それ以外の場合に 0 になることを表す.

やる夫
知ってるお.クロネッカーのデルタだお.

やらない夫
なので結局これらの式が言っていることは,ある区間の中にちょうど整数個の周期がすっぽり収まるような cos とか sin を 2 種類持ってきて,両方をかけあわせてからその区間で積分しても,ほとんどの場合は 0 になって消える; 消えないのは,全く同じもの同士をかけあわせた場合だけだ,ってことだ.

やる夫
ええと,sin 同士,cos 同士の場合は同じ周波数のものどうしの場合以外は 0 になって,sin と cos をかけあわせた場合はどんな場合でも 0 になる.確かにそうなってるお.

やらない夫
直観的には…こう考えようか.全く同じもの同士をかけあわせた場合は常に正の値になるから,積分して 0 にならないのは納得できるだろう.それ以外の組み合わせでは,かけあわせたときに正の部分と負の部分がちょうど同じ面積になるように生じて,積分したら 0 になる.まあ気になるならこれも自分で計算してみるといい.高校数学の範囲で計算できるからな.

やる夫
ふーん,まあ,気が向いたらやっとくお.

やらない夫
これらの式 (1.5) と式 (1.8) をあわせて三角関数の直交性と呼ぶ.詳しい話はそのうち触れたいと思うが,いま何度もやった2つの関数を「かけてから積分する」という操作は,2つの関数の内積を計算していることになるんだ.異なる三角関数は内積がゼロ,つまり直交していることを意味するから直交性と呼ぶ.

やる夫
何をいってるかわからんお.内積はベクトルに対して計算するものだお.関数の内積って意味わからんお.直交しているってのもわからんお.角度はどうなってんだお.

やらない夫
まあそう思うのもしかたないかも知れないが,関数をベクトルとみなす考え方なんだと思ってくれ.イメージとしては,そうだな,例えば $ [f_1, f_2, f_3]$ $ [g_1, g_2, g_3]$ という 2 つの3次元ベクトルがあったら,要素ごとにかけて総和を取って $ \sum_{i=1}^{3} f_i g_i$ とするだろ.

やる夫
それはわかるお.

やらない夫
じゃあ関数を,その関数値がずらーっと並んだものを要素とする無限次元のベクトルだと思えば,総和が積分になって「かけて積分」するのが内積の計算方法になりそうな気がしないか?


\includegraphics[scale=0.5]{fig_fs/innerprod.eps}

やる夫
えっ…,気がしないかと言われるとそういう気がしないでもないお.でもさすがに騙されている気がするお.

やらない夫
うん,まあ正直騙しているに近い.ただ,厳密に数学的な議論をしても同じ結論にたどり着くので,とりあえずそういうもんだと思ってくれ.「直交する」ってのも,「内積がゼロになる」ことをそう呼ぶんだとだけ覚えておけばいい.

やる夫
ふーん,ま,いいお.で,これをどうやって使うんだお?

やらない夫
さっきと同じで,いま欲しいフーリエ係数だけを残して他が全部消えてくれるようにすればいい.例えば $ a_3$ が欲しいなら, $ a_3$ $ \cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\right)}$ の項の係数なんだから,式 (1.1) の両辺に $ \cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\right)}$ をかけてから積分すればいい.

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)\cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\rig...
... k}{T_0}t\right)}\right\}\right\}\cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\right)}dt$ (1.11)

さっきと同じように右辺の積分と総和を入れ替えると,右辺は $ a_3$ の項以外がすべて消えて

$\displaystyle \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t) \cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\ri...
..._0}t\right)} \cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\right)}dt = \frac{a_3 T_0}{2}$ (1.12)

となる.

やる夫
ややこしいけど,さっきとだいたい同じだからわかるお.あとは $ a_3$ について解けばいいんだお.

$\displaystyle a_3 = \frac{2}{T_0} \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t) \cos{\left(\frac{2\pi \cdot 3}{T_0}t\right)}dt$ (1.13)

やらない夫
そうだな.他の係数も全く同じだ.さっきの $ a_0$ も一緒にまとめると,フーリエ係数は以下の式で与えられることになる.

$\displaystyle a_0$ $\displaystyle = \frac{1}{T_0}\int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t)dt$ (1.14)
$\displaystyle a_k$ $\displaystyle = \frac{2}{T_0} \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t) \cos{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}dt    (k = 1, 2, 3, \cdots)$ (1.15)
$\displaystyle b_k$ $\displaystyle = \frac{2}{T_0} \int_{-T_0/2}^{T_0/2}f(t) \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}dt    (k = 1, 2, 3, \cdots)$ (1.16)

結局,$ f(t)$ をフーリエ級数に展開するときは, $ \cos{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}$ の項の係数は $ f(t)$ $ \cos{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}$ をかけたものを積分したものになるし, $ \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}$ の項の係数は $ f(t)$ $ \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)}$ をかけたものを積分したものになる.定数項はそのまま積分したものだったな.

やる夫
やっとたどり着いたお.感慨深いお.

やらない夫
じゃあ,ここまでの話をまとめるか.

  • 周期 $ T_0$ の周期関数 $ f(t)$ (の実用上ほとんど) は,式 (1.1) のような三角関数の無限和で表すことができる.これを $ f(t)$ のフーリエ級数展開と呼ぶ.
  • ここに出てくる各係数は式 (1.14) で与えられて,フーリエ係数と呼ばれる.
  • 足し合わされる三角関数は,元の関数 $ f(t)$ の周期,その 1/2 の周期, 1/3 の周期,1/4 の周期…を持つものである.それ以外の周波数成分は存在しない.

やる夫
一個質問していいかお?

やらない夫
おお,何だ.

やる夫
数学の授業で使った教科書ではフーリエ級数の直流成分の項が $ a_0$ じゃなくて $ a_0/2$ になってた気がするお.教科書が間違ってたのかお?

やらない夫
いや間違ってはいない.式 (1.14) の 3 つの式をもう一回見てくれ.もし $ a_0$ を 2 倍の値にしてよければ,1 個めの式は 2 個めの式に含めてしまえるのがわかるか?

やる夫
ええと,2 個めの式で $ k = 0$ としたら,cos は 1 になるから,確かに 1 個めの式の 2 倍の値になるお.

やらない夫
だから,この 2 つの式を一緒にまとめてしまう方が美しい,と思う人が教科書を書くと, $ a_0$ を今日話した定義の 2 倍にしてしまって,代わりに式 (1.1) の直流成分の項の方を 1/2 倍して表すことになるんだ.どっちも中身は変わらない.フーリエ級数展開の式をきれいに見せたいか,フーリエ係数の計算式をきれいに見せたいか,それだけの違いだな.

やる夫
面倒くさいから統一して欲しいお.


1.4 積分と総和の交換

やらない夫
一応これでフーリエ級数の最低限の話は終わったんだが,もう少し補足説明しておきたいことがある.

やる夫
気分がいいから聞いてやってもいいお.

やらない夫
なんで上から目線なんだよ….さっきのフーリエ係数を導出したところで,ちょっと目をつぶった点があったろ.

やる夫
あー,積分と総和の順序を入れ替えたところだお.

やらない夫
そうだ.無限級数だから,この入れ替えは常にできるわけじゃない.

やる夫
でもどうせ「実用上は多くの関数で可能」とかいう話なんだお? だったらやる夫は気にしないお.

やらない夫
いや,実はここはそういう風には済ませないんだ.無限級数を積分するときに積分と総和の入れ替えが可能かどうかを判定するためには,その級数がどんな項から構成されているかわからないとダメだろ.

やる夫
そりゃそうだお.

やらない夫
でも今の話は,フーリエ係数を求めるための議論だったから,その級数の各項がどんなものかはまだわかっていないわけだろ.

やる夫
そう…だお.

やらない夫
各項がどんなものかわかるためには,積分と総和を入れ替えて計算する必要があったわけだろ.

やる夫
…だお.

やらない夫
積分と総和の入れ替えが可能かどうかを判定するためには,その級数がどんな項から構成されているかわからないとダメだろ.

やる夫
まずいお! 無限ループ恐いお!!

やらない夫
結局,今日の議論は「フーリエ係数を導出する」ための議論とはなり得ないんだ.こう考えて欲しい.仮に式 (1.1) のように $ f(t)$ が表せて,かつ右辺の級数をそのまま積分したり,sin や cos をかけてから積分したりしたときに,積分と総和を入れ替えられるような場合があったとしよう.そのときはフーリエ係数は式 (1.14) の形で与えられるわけだ.

やる夫
そこまではわかるお.今まで聞いてきた話そのものだお.

やらない夫
ところが,実際に何か具体的な $ f(t)$ が与えられたときには,そのような処理をしてよいかどうかはわからない.でも,ともかく式 (1.14) のように計算される係数を使って,式 (1.1) の右辺で表されるような三角関数の無限和を形式的に考えてしまうんだ.それが収束するのかとか,収束した結果 $ f(t)$ に一致するのかとかはひとまず置いておく.そういう風に「ともかく,形式的に,$ f(t)$ を級数っぽく表示してみましたよ」という状態を

$\displaystyle f(t) \sim a_0 + \sum_{k=1}^{\infty} \left\{ a_k \cos{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)} + b_k \sin{\left(\frac{2\pi k}{T_0}t\right)} \right\}$ (1.17)

なんて書くことが多い.

やる夫
なんだお.$ =$$ \sim$ になっただけだお.

やらない夫
「イコールかどうかは分からんよ,とにかくこう書いただけだよ」という意味がこめられていると思えばいい.こうやって各項の形をとにもかくにも定めてやれば,あとはこれが収束するのかとか,収束した結果が $ f(t)$ に一致するのかとかいう議論に進むことができるわけだ.そういう議論は省略するが,言ったとおり「実用上ほとんどの $ f(t)$ では」「十分に実用的な意味で」収束して一致すると考えて構わない.

やる夫
なんか騙された気がするお.

やらない夫
まあそう言うな.厳密な数学に踏み込まずに,可能な限り正確に説明しようとすると,こんな説明がぎりぎりの線だ.

swk(at)ic.is.tohoku.ac.jp
2013.11.02